夜間多尿による夜間頻尿の病態と診療の実際
- 日時:
- 2019年12月2日(月)
- 会場:
- コートヤード・バイ・マリオット新大阪ステーション
- 夜間多尿による夜間頻尿の診断
後藤 百万 先生(名古屋大学大学院 医学系研究科 泌尿器科学 教授)
- 睡眠からみた夜間頻尿
内村 直尚 先生(久留米大学医学部 神経精神医学講座 教授)
- ミニリンメルト®の有効性と安全性
後藤 百万 先生(名古屋大学大学院 医学系研究科 泌尿器科学 教授)
後藤 百万 先生(名古屋大学大学院 医学系研究科 泌尿器科学 教授)
内村 直尚 先生(久留米大学医学部 神経精神医学講座 教授)
柿崎 秀宏 先生(旭川医科大学 腎泌尿器外科学講座 教授)
武井 実根雄 先生(原三信病院 泌尿器科 部長)
鳥本 一匡 先生(奈良県立医科大学 泌尿器科学教室 講師)
夜間頻尿とは
夜間頻尿は、国際禁制学会(ICS 2002)の定義1)では「夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという愁訴」とされる。2003年に日本排尿機能学会が実施した疫学調査によると、下部尿路症状(LUTS)の中では夜間頻尿が男女ともに最も多く、夜間に1回以上起きる有症状者は全国で4,500万人と推定された2)。
夜間頻尿が実際に臨床上の問題となるのは、通常、夜間に2回以上起きる場合が多く3)、前述の疫学調査では、夜間頻尿が「生活の支障となる」という回答が女性で約2割、男性では約4割を占め、QOLへの影響が大きいことが示唆された2、4)(図1)。
夜間多尿は、夜間頻尿のキーとなる病態
夜間頻尿の原因は、「多尿」、「夜間多尿」、「膀胱蓄尿障害(膀胱容量の減少)」、「睡眠障害」に大別され、これらが複合的に併発することもある5)。多尿(polyuria)は、1日の排尿量が40mL/kg(体重)を超える場合をいい、夜間多尿(nocturnal polyuria)は、1日の排尿量のうち夜間尿量の割合が多い場合をいう1)。夜間多尿の原因は多岐にわたり、抗利尿ホルモン(Arginine vasopressin;AVP)分泌リズムの異常、水分過剰摂取、薬剤の影響、高血圧、睡眠時無呼吸症候群、腎機能障害、うっ血性心不全などが挙げられる5、6)。
夜間頻尿に対する治療として、実臨床下では男性では前立腺肥大症(BPH)、女性では過活動膀胱(OAB)として治療されることが多いが、夜間頻尿患者の約8割に夜間多尿がみられたとの報告7)もある。夜間頻尿の訴えがある場合には、まず排尿日誌を用いて、多尿、夜間多尿、膀胱蓄尿障害を鑑別し、治療方針を検討することが理に適っていると考えている。
排尿日誌から得られる情報
排尿日誌は、排尿時刻、各排尿量、尿失禁の有無や程度、尿意切迫感の有無などを記録するものである。夜間多尿の診断のためには、少なくとも排尿時刻と尿量を記録する「頻度・尿量記録(Frequency volume chart;FVC)」が必須と考えられる。
FVCからは夜間/昼間の排尿回数を客観的に知ることができ、排尿量が計算できる。また、1回の排尿量からは機能的膀胱容量を、尿失禁の回数や量からはその重症度を、1日の排尿量からは水分摂取量を推測できるなど、排尿状況の詳細な情報が得られ、適切な治療の選択につながると考える。
排尿日誌に基づく夜間頻尿診療
排尿日誌で夜間多尿が確認された場合に、BPHやOABといった膀胱蓄尿障害が合併している場合は、膀胱蓄尿障害の治療を先に行い、必要に応じて夜間多尿の治療を追加する。夜間多尿だけの場合は、心不全、高血圧、慢性腎臓病、慢性呼吸器障害など他の原因疾患の精査と治療を行った上で、水分制限などの行動療法を指導する。それでも改善がみられない場合は、昼間に利尿薬で利尿を促したり※、*1、男性ではミニリンメルト®OD錠50μg・25μg*2(低用量デスモプレシン)が適応となる。
※夜間頻尿治療薬としては本邦未承認
*1:チアジド系利尿剤・チアジド系類似剤・ループ利尿剤は、ミニリンメルト®OD錠50μg・25μgと併用禁忌
*2:夜間の排尿回数が2回以上で夜間尿量指数33%以上が適応
- 後藤:
- まず、男性の夜間頻尿患者の診療の流れ、排尿日誌の使用状況をお聞かせください。
- 武井:
- 中高年の男性では、まず前立腺疾患を診ますが、頻尿や夜間頻尿を訴える患者には、初診時に排尿日誌の説明をして、次回に患者さんと一緒に記録を見て、膀胱容量や頻尿の傾向から治療方針を決めています。
- 鳥本:
- 基本的な症状をチェックしてBPHやOABの疑いが強い患者では、薬物治療を先行しますが、改善されない場合に排尿日誌を使っています。
- 柿崎:
- 私も同様の治療方針で、4~8週間で評価して十分改善されない場合に排尿日誌を使います。ただ、夜間頻尿を強く訴える患者では、早めに排尿日誌での確認を行うようにしています。
- 後藤:
- 夜間頻尿、夜間多尿患者の頻度はどうですか?
- 柿崎:
- LUTSがある患者の訴えとして夜間頻尿は非常に多く、過活動膀胱症状質問票(OABSS)や国際前立腺症状スコア(I-PSS)を使うと、夜間排尿回数が0回という患者は、ほとんどいません。BPHの患者では7~8割に夜間頻尿があると思います。
- 武井:
- 夜間頻尿の患者の半数以上に夜間多尿があり、高齢の方ほど多くなるという印象です。
- 後藤:
- 夜間多尿と診断しミニリンメルト®を処方するには、排尿日誌が必須ですが、排尿日誌を実臨床で使う際のポイントは何でしょうか?
- 武井:
- 適切な説明ができるようにコメディカルの協力を得ることと、患者へのフィードバックだと思います。
- 鳥本:
- 「これで治療方針が見えてきます」と説明すると、患者さんも頑張って付けてくれますね。
- 柿崎:
- 初期治療の効果が十分でない場合、「排尿日誌で評価しましょう」という形で進めると、患者さんも納得しやすいと思います。
睡眠障害と夜間頻尿の関連
夜間頻尿の原因となる睡眠障害は多様であり、不眠症、内科疾患、神経疾患、薬剤の影響、うつ病、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動障害、レストレスレッグス症候群などが挙げられる。
不眠(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)の有病率の調査では、入眠困難が7.2%、中途覚醒が15.2%、早朝覚醒が5.2%にみられ、年齢群別では、いずれの症状も年齢とともに増加し、特に中途覚醒は60歳以上で約20%にみられた8)(図2)。
中途覚醒の増加は、夜間頻尿と関連していると考えられ、その要因として、加齢に伴う膀胱容量の減少、抗利尿ホルモン(AVP)分泌低下、睡眠の質の低下が挙げられる。加齢に伴い睡眠が浅くなると中途覚醒や早朝覚醒が増え、膀胱容量の減少により軽度の膀胱内圧上昇で尿意を感じてトイレに行くようになる。また排尿時に光を浴びることでメラトニンの分泌が抑制され、加えて交感神経が刺激されるため再入眠しにくくなり、さらに睡眠の質が悪化して夜間の排尿回数が増える。このように睡眠障害と夜間頻尿は相互に原因と結果になりやすく、悪循環に陥りやすいと考えられる9)。
深睡眠の重要性
夜間頻尿がQOLに及ぼす影響をN-QOL質問票(Nocturia Quality-of Life Questionnaire)を用いて調査した報告によると、夜間の排尿回数と睡眠障害の程度が、QOLに影響し、特に男性でQOLへの影響が大きいことが示された10)。
睡眠は約90分を1周期とする、浅い眠りのレム睡眠と、心身を休息させる深い眠りのノンレム睡眠(深睡眠)を繰り返す(図3)。深睡眠が減少すると、交感神経が優位となり夜間の血圧が上昇する11、12)、インスリン抵抗性が高まり血糖コントロールが悪化する13)などの影響がみられる。一方、深睡眠が増加すると、成長ホルモンの分泌により新陳代謝が促され14、15)、脳を休息させることで記憶・認知機能を高める16、17)(図4)。つまり、深睡眠をいかにして得るかが重要なポイントとなる。
第一覚醒時間の延長による夜間頻尿への影響
中高年になると深睡眠の大部分は、90分周期の最初の2回、就眠直後の約3時間に現れるため、この時間帯に睡眠を持続することが重要となる。したがって、就眠後の最初の覚醒(第一覚醒)までの時間(hours of undisturbed sleep;HUS)を3時間以上とすることは睡眠の質を向上させ18)、夜間頻尿の改善、QOLの改善につながると考えられる。
- 後藤:
- 内村先生から、夜間頻尿と睡眠の関連についてお話しいただきましたが、先生方は睡眠の評価を、どのようにされていますか?
- 鳥本:
- 夜間頻尿が主訴の患者には、就床時間を聞くようにしています。あまりに早く寝ている場合は、睡眠衛生指導をすることも意識しています。
- 内村:
- 高齢者は早く寝る方が多いですが、高齢になるほど必要な睡眠時間は短くなり、65歳では約6時間19)といわれています。不眠の認知行動療法の1つに床上時間の短縮があり、65歳以上では7時間程度にすると睡眠の質が向上して、中途覚醒や夜間の排尿回数が減少すると思います。また、睡眠時間の長さを気にする場合は、深睡眠を得やすい就眠直後の3時間に続けて眠ることが重要という指導も大切だと思います。
- 武井:
- トイレに起きた後、すぐ寝つけるか質問しています。寝つきが悪い方ほど夜間頻尿を苦にしていますね。
- 内村:
- 夜間の覚醒回数や、トイレに起きた後すぐ寝つけるかは、QOLに大きく影響しますので、寝つくまでの正確な時間はわからなくても、自覚的な苦痛を聞いて治療を検討することも重要だと思います。寝つきの悪い方には、昼間に日光を浴びることを勧めるといいと思います。
- 後藤:
- 夜間頻尿と睡眠障害の両方を訴える患者に、泌尿器科で睡眠薬を処方することもできますが、専門医に紹介することが望ましいのは、どのような患者でしょうか?
- 内村:
- 睡眠障害の中では、「睡眠時無呼吸症候群」で夜間頻尿が起きやすいですが、睡眠時無呼吸症候群は、睡眠薬で悪化することもありますので鑑別が必要です。また、特殊な睡眠障害である「周期性四肢運動障害」、「レストレスレッグス症候群」も専門医による治療が必要ですね。これらの睡眠障害は、いずれも高齢者に起こりやすいです。また、「うつ病」も鑑別が必要です。ただ、男性における夜間多尿による夜間頻尿を伴う睡眠障害では、ミニリンメルト®で夜間多尿が改善されれば睡眠も改善が期待できると思いますので、投与後の効果を評価してから睡眠薬(オレキシン受容体拮抗薬など)の併用を検討してもいいと思います。
ミニリンメルト®OD錠50μg・25μgの有効性
国内第Ⅲ相試験(130試験)20、21)は、プラセボを対照とした無作為化二重盲検で実施され、ミニリンメルト®OD錠50μg、25μg※を12週間、1日1回就寝前に水なしで投与して有効性と安全性を検討した。対象は、夜間多尿による夜間頻尿(夜間の排尿回数が2回以上で夜間多尿指数*3が33%以上)の成人男性患者342例で、平均年齢は各群ともに約63歳、65歳未満/65歳以上の比率は約1:1であった。
*3:24時間の尿排出量に対する夜間の尿排出量の割合
・夜間排尿回数、夜間尿量を減少
主要評価項目は、投与12週間の平均夜間排尿回数のベースラインからの変化量(図5)であり50μg群で1.21回減少、25μg群※で0.96回減少し、両群ともにプラセボ群の0.76回減少に対する有意差が示された(それぞれp<0.0001、p=0.0143、ANCOVA)。また、夜間排尿回数のベースラインからの変化量を経時的にみると、投与1週時に50μg群、25μg群※ともにプラセボ群に対して有意に減少し(それぞれp<0.0001、p<0.05、ANCOVA*4)、50μg群では12週まで維持された。
また、副次評価項目である、投与12週間の平均夜間尿量のベースラインからの変化量は、50μg群で267.87mL減少、25μg群※で225.79mL減少し、プラセボ群の161.18mL減少に対して有意差が認められた(それぞれp<0.0001、p=0.0003、ANCOVA*4)。
・就眠後第一排尿までの時間を延長
睡眠と関連する評価項目として、就眠後第一排尿までの時間(図6)が検討された。「就眠後第一排尿」は床に就いてから、起きて排尿したときの最初の排尿をいい、就眠後第一排尿までの時間は先に述べた就眠直後に現れる深睡眠に影響すると考えられる。本剤投与12週間の就眠後第一排尿までの平均時間のベースラインからの変化量(副次評価項目、図7)は、50μg群でベースラインから約2時間(117.60分)延長、25μg群※で約1.5時間(93.37分)延長され、プラセボ群の約1時間(62.97分)に対し有意に改善した(それぞれp<0.0001、p=0.0009、ANCOVA)。
また、探索的評価項目として、就眠後第一排尿までの平均時間を検討したところ(図8)、投与12週間の第一排尿までの時間が3時間(180分)に至った患者は、50μg群で82%、25μg群※で78%、4.5時間(270分)に至った患者は、50μg群で52%、25μg群※で40%であった。深睡眠を得やすい時間帯の睡眠の持続が期待できる。
なお、投与12週間のHsu5段階リッカート困窮度尺度は、50μg群でベースラインから1.23低下、25μg群で1.08低下、プラセボ群で0.92低下しており、50μg群においてプラセボ群に対する有意な低下がみられた(p=0.0113、ANCOVA*4)。
*4:ベースラインの各パラメータ(夜間排尿回数、夜間尿量、Hsu5段階リッカート困窮度尺度)を共変量、投与群、Visit、年齢層を固定効果としたANCOVAにより解析
Hsu5段階リッカート困窮度尺度:“この夜間の排尿回数について、どの程度煩わしいと感じていますか?”との質問に、“全く感じない”、“わずかに感じる”、“ある程度感じる”、“かなり感じる”、“非常に感じる”の選択肢に回答した。
〔試験概要〕
目的:夜間多尿による夜間頻尿の男性患者に対し、ミニリンメルト®OD錠50μg又は25μgを12週間投与したときの有効性及び安全性をプラセボを対照として検討する。
対象:成人男性夜間頻尿※1患者342例(FAS:338例、安全性解析対象集団:341例)
方法:ミニリンメルト®50μg、25μg又はプラセボを毎晩、就眠の約1時間前に舌下· 水なしで12週間投与
主要評価項目:投与12週間の平均夜間排尿回数のベースラインからの変化量
副次評価項目:投与後1、4、8、12週時点の平均夜間排尿回数のベースラインからの変化量、投与12週間及び投与後1、4、8、12週時点の就眠後第一排尿までの平均時間のベースラインからの変化量、投与12週間及び投与後1、4、8、12週時点の平均夜間尿量のベースラインからの変化量 等
探索的評価項目:投与12週間に就眠後第一排尿までの平均時間が180分、270分に至った患者の割合
安全性評価項目:有害事象の発現頻度及び重症度、臨床的に問題であると判断される臨床検査値及びバイタルサインの異常、24時間尿量
解析計画:
主要評価項目:3日間の排尿日誌から得られたデータを基に、ベースラインの夜間排尿回数を共変量、投与群、Visit、年齢層を固定効果とする反復測定の共分散分析(ANCOVA)により解析。
副次評価項目:主要評価項目と同様のANCOVAモデルにより解析した。
探索的評価項目:ベースラインの就眠後第一排尿までの平均時間を共変量、投与群、Visit、年齢層を固定効果とした一般化推定方程式(GEE)により解析。
安全性評価項目:標準的な有害事象及び臨床検査値の集計に加え、血清ナトリウム値は125mmol/L以下、126~129mmol/L、130~134mmol/L、135mmol/L以上に区分して発現率を集計した。
安全性:本試験において、副作用は50μg群5.5%(6/109例)、25μg群7.0%(8/1 15例)、プラセボ群6.0%(7/117例)に発現し、主な副作用は、50μg群で低ナトリウム血症1.8%(2例)、25μg群でBNP増加1.7%(2例)であった。プラセボ群では副作用として動悸、頻脈、消化不良、倦怠感、アルコール性肝疾患、BNP増加、血圧上昇が各0.9%(1例)に認められた。中止に至った副作用は、50μg群で低ナトリム血症1例、25μg群で血中カルシウム減少、肝機能異常が各1例であった。重篤な有害事象は50μg群で麻痺性イレウス1例、25μg群で膵癌1例が認められたが、因果関係は否定された。本試験において死亡例は認められなかった。
※1 一晩あたりの夜間排尿回数2回以上及び夜間多尿指数33%以上。重症の過活動膀胱の症状が認められる患者〔過活動膀胱症状質問票(OABSS)12点以上〕、低膀胱容量(1回の最大排尿量が150mL未満)の患者等は除外。
社内資料:男性患者国内第Ⅲ相試験(130試験)[承認時評価資料]
Yamaguchi O, et al.:Low Urin Tract Symptoms 2020; 12(1):8-19.
フェリング・ファーマ実施治験
※4. 効能又は効果 男性における夜間多尿による夜間頻尿
6. 用法及び用量 成人男性には、通常、1日1回就寝前にデスモプレシンとして50μgを経口投与する。
7. 用法及び用量に関連する注意(抜粋) 年齢、体重、血清ナトリウム値、心機能等の状態から低ナトリウム血症を発現しやすいと考えられる場合には、デスモプレシンとして25μgから投与を開始することを考慮すること。
デスモプレシンにおける低ナトリウム血症
海外では、高用量(60、120、240μg※)のデスモプレシンが成人の夜間多尿による夜間頻尿の治療薬として以前から使用され、低ナトリウム血症の副作用が懸念されてきた。低ナトリウム血症は、通常、血清ナトリウム値が135mEq/L未満が目安とされており、120mEq/L以下で全身倦怠感、頭痛、嘔吐、食欲不振などの症状が現れ、110mEq/L以下では昏睡、痙攣などが起こるといわれている22)。高齢者に対して、より安全性に配慮した低用量(25、50μg)のニーズが高まり、本邦でも夜間頻尿に対しては低用量製剤としての開発が進められた。
国内第Ⅲ相試験(130試験)では、ベースラインの血清ナトリウム値135mEq/L未満は対象から除外し、試験中は投与後3日、1週、2週、4週、8週、12週時に血清ナトリウム値を測定し評価した。投与後の最低血清ナトリウム値の年齢別分布をみると(図9)、135mEq/L未満が測定されたのは11例で、そのうち10例が65歳以上であった。120mEq/L以下の症例は認められなかった。
試験期間を通じて、低ナトリウム血症関連の副作用は安全性解析対象集団224例(65歳以上は119例)中3例(全て65歳以上)に認められ、うち1例が投与を中止した。
低ナトリウム血症に関する留意事項として、投与前の血清ナトリウム値(135mEq/L以上)の確認、投与後の期的な血清ナトリウム値チェック、低ナトリウム血症のリスクのある患者では25μgからの投与開始を考慮、低ナトリウム血症発現の恐れがある併用禁忌薬剤(チアジド系利尿剤、チアジド系類似剤、ループ利尿剤、副腎皮質ステロイド剤)などがある。
本剤を適正に使用し、男性における夜間多尿による夜間頻尿患者に活用いただきたい。
※4. 効能又は効果 男性における夜間多尿による夜間頻尿
6. 用法及び用量 成人男性には、通常、1日1回就寝前にデスモプレシンとして50μgを経口投与する。
7. 用法及び用量に関連する注意(抜粋) 年齢、体重、血清ナトリウム値、心機能等の状態から低ナトリウム血症を発現しやすいと考えられる場合には、デスモプレシンとして25μgから投与を開始することを考慮すること。
- 後藤:
- ミニリンメルト®はLUTSの治療において、どのような位置づけになると思いますか?
- 柿崎:
- BPH、OABなどの治療をしても夜間排尿回数が2回以上ある成人男性の選択肢になると思います。これまで、BPHやOABに対する治療を行っても夜間排尿回数があまり減らないという患者さんも多かったので、国内臨床試験においてミニリンメルト®50μgで夜間排尿回数が1回以上減少したことと、就眠後第一排尿までの時間が約2時間延長したことに、強いインパクトを感じています。実臨床でのBPHやOAB治療薬との併用効果にも期待しています。
- 鳥本:
- OAB治療薬で昼間の尿意切迫感が改善しても、夜間排尿回数が減少しないと睡眠を改善することは難しいので、QOLへの影響に期待が持てる治療であろうと思います。
- 武井:
- 夜間排尿回数が1回減ることの意味を考えると、“たった1回”なのではなく、回数が減り、就眠後第一排尿時間も延長されることで、心身にとって重要な深睡眠を確保できる。国内臨床試験で、通常用量の50μgの投与により就眠後第一排尿までの時間が約2時間延長して約4.5時間になったことは、重要なポイントと考えています。
- 内村:
- 第一覚醒時間(HUS)が約4.5時間になれば、その後は早朝覚醒に移る時間帯なので、トイレに起きた後に寝つきが悪くても苦痛は小さくなり、全体の睡眠の質が向上することが期待されます。 また、高齢者では、抗利尿ホルモン(AVP)の分泌低下による夜間頻尿が中途覚醒の一因となりますので、抗利尿ホルモン製剤であるミニリンメルト®は夜間排尿回数を減らすことで睡眠の質にも影響を及ぼすと思われます。
- 後藤:
- 夜間多尿であることが確認され、成人男性にミニリンメルト®を投与するときの留意点はなんでしょうか?
- 武井:
- ミニリンメルト®の投与に備えて、心疾患、高血圧などの加療や既往歴、服薬のチェック体制を整えました。水分貯留傾向にも留意して、投与中は自宅での体重測定を勧めています。
- 鳥本:
- 心疾患に注意してBNP(目安として100pg/mL以上)をみるようにしています。
- 柿崎:
- 心不全、中等度以上の腎機能障害(Ccr50mL/分未満)、低ナトリウム血症(135mEq/L未満)などは、投与禁忌ですね。また、低体重やフレイル(Frailty)傾向にある高齢者には慎重に投与すべきと考えています。
- 武井:
- ミニリンメルト®を活用するためには、これらの検査値の境界線上の患者への対応も重要です。フレイルなどで筋肉量が少ない場合は水分貯留傾向がありますので、投与前の生活指導に加え、投与中も継続して運動などの行動療法や生活指導の実施を考慮する必要があると思います。
- 柿崎:
- 患者に副作用の症状を十分説明すること、また投与開始後の早期来院を促してチェックし、必要があれば中止するという体制を整えることも重要だと思います。
- 武井:
- 低ナトリウム血症は自覚症状が少ないので、定期的な血液検査が必要です。
- 後藤:
- 血清ナトリウム値については、投与前だけでなく、投与開始から1週間以内、1ヵ月後、その後の定期的なチェックを行う必要があります(図10)。ところで血清ナトリウム値の低下傾向がみられた場合、50μgから25μgに変更する、または一旦休止して25μgで再開するという手法はあるでしょうか。
- 柿崎:
- 実臨床では、投与前でも血清ナトリウム値が135mEq/L付近という方もいますので、飲水制限など生活指導・行動療法を行いつつ、様子をみながら25μgから開始すること、さらに飲水量が多いときは服用しないよう指導することが重要です。
- 鳥本:
- 低体重の高齢者で25μgから投与を開始して、効果と血清ナトリウム値に応じて50μgに増量することも考えられますね。添付文書の制限を守って投与すれば、リスクを最小限にできると考えています。ただ、80歳以上の方には特に注意する必要があると思います。
- 後藤:
- ようやく日本でも使用できるようになった夜間多尿による夜間頻尿治療薬ですから、適正に使用して最大限の効果を男性患者さんに届けたいものです。今日は、睡眠に関する話題を交えて、泌尿器科医とは違う観点からのディスカッションもできました。先生方、ありがとうございました。
1) 本間之夫, 他:日本排尿機能学会誌 2003; 14(2): 278-289.
2) 本間之夫, 他:日本排尿機能学会誌 2003; 14(2): 266-277.
3) 日本排尿機能学会夜間頻尿診療ガイドライン作成委員会編:夜間頻尿診療ガイドライン.
第1版, ブラックウェルパブリッシング 2009; 10-12.
4) 日本排尿機能学会夜間頻尿診療ガイドライン作成委員会編:夜間頻尿診療ガイドライン.
第1版, ブラックウェルパブリッシング 2009; 29-35.
5) 日本排尿機能学会夜間頻尿診療ガイドライン作成委員会編:夜間頻尿診療ガイドライン.
第1版, ブラックウェルパブリッシング 2009; 13-22.
6) van Kerrebroeck P, et al.:Int J Clin Pract 2010; 64(6): 807-816.
7) Weiss JP, et al.:J Urol 2011; 186(4): 1358-1363.
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9) 白川修一郎, 他:泌尿器外科 2003; 16(1):15-20.
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11) Tochikubo O, et al.:Hypertension 1996; 27(6):1318-1324.
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17) Power AE:Proc Natl Acad Sci USA 2004; 101(7):1795-1796.
18) Stanley N:Eur Urol Suppl 2005; 4(7):17-19.
19) Ohayon MM, et al.:Sleep 2004;27(7):1255-1273.
20) 社内資料:男性患者国内第Ⅲ相試験(130試験)[承認時評価資料]フェリング・ファーマ実施治験
21) Yamaguchi O, et al.:Low Urin Tract Symptoms 2020; 12(1): 8-19.フェリング・ファーマ実施治験
22) 山路 徹:最新内科学体系 内分泌疾患1 間脳・下垂体疾患 中山書店, 1993; 12:182-188.