夜間頻尿の病因と診療の流れ
夜間頻尿の病因は多様で、主に過活動膀胱(OAB)や前立腺肥大症(BPH)などの膀胱蓄尿障害、夜間多尿、睡眠障害、腎機能障害、抗利尿ホルモン分泌低下、高血圧や心不全などの循環器疾患、水分過剰摂取1)などがあり、夜間頻尿の診療では、これら複数の病因を考慮し、鑑別することが重要である。
OABやBPHに伴う夜間頻尿の場合には、抗コリン薬やβ3作動薬、α1遮断薬、5α還元酵素阻害薬などによる治療を優先する。OABやBPH治療薬による治療後も夜間頻尿を訴える患者では、夜間多尿を有する場合が多いが、排尿日誌や問診、臨床検査結果などから、夜間多尿の有無を確認し、高血圧、心不全、糖尿病等によるものかどうかを精査する。さらに、行動療法や水分摂取に関する生活指導を行った上で、夜間多尿による夜間頻尿と診断された場合に、男性では、ミニリンメルト®OD錠50μg/25μg(一般名:デスモプレシン酢酸塩水和物)口腔内崩壊錠が適応となる。
ミニリンメルト®OD錠の作用機序
体内の水分量は、抗利尿ホルモンであるアルギニン・バソプレシン(AVP)によって調節されている。AVPは腎臓の集合管細胞のV2受容体を介して水の再吸収を促し、尿量を減少させるが、加齢に伴い夜間のAVP分泌が低下すると、夜間尿量が増加する。
デスモプレシンはAVPの誘導体で、バソプレシンV2受容体に選択的な結合親和性を示し(Ki値1.04nmol/L)2)、抗利尿効果はAVPの3~10倍、尿浸透圧>200mOsm/kgを示す作用時間は、男性では50μgOD錠で平均2.4時間である3)。就寝前に服用することで夜間尿量の減少が期待でき、現時点では男性の夜間多尿による夜間頻尿に対する薬理学的作用を有する唯一の薬剤である。
1)Everaert K, et al.: Neurourol Urodyn 2019; 38(2): 478-498.
2)社内資料:KW-8008の受容体結合能測定試験
3)Yamaguchi O, et al.: BJU Int 2013; 111(3): 474-484.
フェリング・ファーマ実施治験
夜間頻尿、夜間多尿の定義
夜間頻尿は、下部尿路症状(LUTS)の中でも特に支障度の高い症状の1つであり、夜間2回以上の排尿は良好な睡眠を阻害し、回数が増えるほどQOLへの影響が大きいことが示されている1)。過活動膀胱(OAB)患者では、91.1%に夜間頻尿症状がみられたとの調査結果2)や夜間頻尿患者の6割がQOLへの影響を感じていたこと3)が報告されている。
2020年5月に『夜間頻尿診療ガイドライン 第2版』が出版され、その中で、夜間頻尿は「夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという愁訴であり、その回数は夜間睡眠中の排尿回数で、その排尿の前後には睡眠していることになる」と定義されている4)。
また、夜間多尿は「夜間多尿指数〔NPi(夜間尿量/24時間尿量)×100%〕が、65歳を超える高齢者では33%を、若年成人では20%を超えた状態」と定義されている4)。
夜間頻尿診療ガイドライン改訂のポイント
夜間頻尿の病因には、主に多尿・夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の3つがあり、また、循環器疾患も関与し、それぞれの要因の背景にある病態も多彩である5)。本ガイドラインは、これら「複数の病因を包括的に治療・ケアすることが重要」というコンセンサスのもと、11年ぶりに改訂された。
改訂のポイントの1つは、診療アルゴリズムを泌尿器科専門医向けと一般医向けに分けたことである。
泌尿器科専門医向けアルゴリズムでは、排尿日誌を必須の基本評価項目とし、最初に多尿、夜間多尿、膀胱蓄尿障害の有無を確認し、3つのアルゴリズムに基づいて治療を進める6)。
一般医向けアルゴリズムでは、排尿日誌は基本評価項目ではなく、症例を選択して行う評価の1つとされている。本アルゴリズムでは多尿や夜間多尿が疑われた場合は、泌尿器科専門医へ紹介することとしたが、可能なら一般医においても排尿日誌を夜間多尿やLUTSの確認に利用していただきたいと考えている。
また、実践的なClinical Question(CQ)を設けたことも大きな改訂ポイントである。 CQでは、回答に推奨グレード(A~D、保留)を付記し、認知症患者や要介護患者の対処法についても概説し、さまざまな専門医への紹介の目安なども記した。
治療に関しては、行動療法を重視して推奨グレードを検討し、さらに第1版で保留とされていたミニリンメルト®OD錠(デスモプレシン)についても、「男性における夜間多尿による夜間頻尿」の効能又は効果で新規に承認されたことを受け、そのエビデンスに基づいて、推奨グレード:男性 A 「行うよう強く勧められる」(女性は保留、保険適用外)との位置づけを明記した。
夜間多尿症例の診療アルゴリズム
先述のように泌尿器科専門医アルゴリズムでは、夜間頻尿を訴える中高年患者に対し、排尿日誌を基本評価として利用し、夜間多尿が認められた場合には、アルゴリズム2(夜間多尿症例の診療アルゴリズム)(図1)に沿って治療を進める6)。
夜間多尿に膀胱蓄尿障害を伴う場合は、夜間多尿に対する行動療法に加え、膀胱蓄尿障害の治療を行う。膀胱蓄尿障害がない場合はまずは行動療法のみを実施する。膀胱蓄尿障害の治療で改善がみられない場合や夜間多尿に対する行動療法で改善がみられない場合は、心不全、降圧が不十分な高血圧、慢性腎臓病、睡眠呼吸障害などを評価し、これらがある場合は各領域の専門医へ紹介し、ない場合は夜間多尿に対する薬物療法として、男性ではミニリンメルト®OD錠の投与を考慮する。
ミニリンメルト®OD錠の臨床成績
ミニリンメルト®OD錠の有効性・安全性について、国内外で実施された臨床試験に加え、実臨床での治療成績も明らかになってきた。
● 男性患者国内第Ⅲ相検証試験(130試験)7, 8)
夜間多尿による夜間頻尿*1の成人男性患者342例(平均年齢約63歳)を対象に実施した国内第Ⅲ相試験では、ミニリンメルト®OD錠50μgまたは25μg※を12週間、1日1回就寝前に水なしで投与した。
主要評価項目である投与12週間の平均夜間排尿回数のベースラインからの変化量(図2)は、50μg群では1.21回減少、25μg群※では0.96回減少し、両群ともにプラセボ群の0.76回減少に対する有意差が示された(それぞれp<0.0001、p=0.0143、ANCOVA)。
*1:夜間の排尿回数が2回以上で夜間多尿指数が33%以上
● 実臨床における治療成績9)
LUTSを有し夜間多尿による夜間頻尿と診断された成人男性患者20例(平均年齢77.1歳)にBPHまたはOAB治療で効果不十分のため、ミニリンメルト®OD錠50μg(高齢者では25μg)を投与した。
夜間排尿回数は、初診時4.0回から、BPH・OAB治療後3.5回(vs.初診時 p<0.01、対応のあるt検定、以下同様)、ミニリンメルト®OD錠追加1週後2.2回(p<0.001)、追加4~5週後2.3回(p<0.001)に減少した。また、就寝後夜間第一排尿までの時間(HUS)は、初診時95.2分に対し、BPH・OAB治療後112.6分(p<0.01)、ミニリンメルト®OD錠追加1週後185.5分(p<0.001)、追加4~5週後197.8分(p<0.001)に延長した。
副作用は追加1週後に低ナトリウム血症1例、4週後に浮腫1例が認められたが、いずれも投与中止により回復した。
市販直後調査における結果報告10)
2019年9月20日~2020年3月19日の6ヵ月間に、ミニリンメルト®OD錠50μg/25μgの「男性における夜間多尿による夜間頻尿」を対象とする市販直後調査が実施され、1,669施設から50例70件の副作用が報告された。
主な副作用は、低ナトリウム血症26件、血中ナトリウム減少9件、頭痛5件などであった。
調査期間中に低ナトリウム血症または血中ナトリウム減少として報告された症例は36例36件(製品名不明*2の2例2件を含む)、うち重篤例は13例13件であった。なお、転帰が確認された症例はいずれも治療中断により軽快または回復した。
ミニリンメルト®OD錠50μg/25μgの投与にあたっては、特に低ナトリウム血症の発現に注意し、患者選択、投与中のモニタリングや水分摂取の指導等、適正使用を継続していただきたい。
*2:ミニリンメルト®OD錠には50μg/25μgの用量以外に、60μg(効能効果;中枢性尿崩症)、120μg および240μg(共に効能効果:尿浸透圧又は尿比重低下に伴う夜尿症、中枢性尿崩症)があります。
1)日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編:夜間頻尿診療ガイドライン. 第2版, リッチヒルメディカル2020; 104-108. (QOL)
2)Gotoh M, et al.: Int J Urol 2014; 21(5): 505-511.
3)Schatzl G, et al.: Urology 2000; 56(1): 71-75.
4)日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編:夜間頻尿診療ガイドライン. 第2版, リッチヒルメディカル2020; 75-82. (用語定義)
5)日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編:夜間頻尿診療ガイドライン. 第2版, リッチヒルメディカル2020; 83-93. (病因と機序)
6)日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編:夜間頻尿診療ガイドライン. 第2版, リッチヒルメディカル2020; 2-9. (アルゴリズム)
7)社内資料:男性患者国内第Ⅲ相試験(130試験)[承認時評価資料]
8)Yamaguchi O, et al.: Low Urin Tract Symptoms 2020; 12(1): 8-19.フェリング・ファーマ実施治験
9)西野好則:泌尿器外科 2020; 33(9), 1211-1217.
10)ミニリンメルト®OD錠50μg/25μg「市販直後調査」結果概要のご報告
男性患者国内第Ⅲ相検証試験(130試験)7, 8)〔試験概要〕
- 目的
- 夜間多尿による夜間頻尿の男性患者に対し、ミニリンメルト®OD錠50μg又は25μgを12週間投与したときの有効性及び安全性をプラセボを対照として検討する。
- 対象
- 成人男性夜間頻尿※1患者342例(FAS:338例、安全性解析対象集団:341例)
- 方法
- ミニリンメルト®OD錠50μg、25μg又はプラセボを毎晩、就眠の約1時間前に舌下· 水なしで12週間投与
- 主要評価項目
- 投与12週間の平均夜間排尿回数のベースラインからの変化量
- 副次評価項目
- 投与後1、4、8、12週時点の平均夜間排尿回数のベースラインからの変化量、投与12週間及び投与後1、4、8、12週時点の就眠後第一排尿までの平均時間のベースラインからの変化量、投与12週間及び投与後1、4、8、12週時点の平均夜間尿量のベースラインからの変化量 等
- 探索的評価項目
- 投与12週間に就眠後第一排尿までの平均時間が180分、240分、270分に至った患者の割合 等
- 安全性評価項目
- 有害事象の発現頻度及び重症度、臨床的に問題であると判断される臨床検査値及びバイタルサインの異常、24時間尿量
- 解析計画
-
- 主要評価項目
- 3日間の排尿日誌から得られたデータを基に、ベースラインの夜間排尿回数を共変量、投与群、Visit、年齢層を固定効果とする反復測定の共分散分析(ANCOVA)により解析。
- 副次評価項目
- 主要評価項目と同様のANCOVAモデルにより解析した。
- 探索的評価項目
- 臨床的に意味のある一定以上の効果を認めた患者(就眠後第一排尿までの時間が180分、240分、270分に至った患者の割合)を用いたレスポンダー解析を事前に計画した。
- 安全性評価項目
- 標準的な有害事象及び臨床検査値の集計に加え、血清ナトリウム値は125mmol/L以下、126~129mmol/L、130~134mmol/L、135mmol/L以上に区分して発現率を集計した。
安全性:本試験において、副作用は50µg群5.5%(6/109例)、25µg群7.0%(8/115例)、プラセボ群6.0%(7/117例)に発現し、主な副作用は、50µg群で低ナトリウム血症1.8%(2例)、25µg群でBNP増加1.7%(2例)であった。プラセボ群では副作用として動悸、頻脈、消化不良、倦怠感、アルコール性肝疾患、BNP増加、血圧上昇が各0.9%(1例)に認められた。中止に至った副作用は、50µg群で低ナトリウム血症1例、25µg群で血中カルシウム減少、肝機能異常が各1例であった。重篤な有害事象は50µg群で麻痺性イレウス1例、25µg群で膵癌1例が認められたが、治験薬との因果関係は否定された。本試験において死亡例は認められなかった。
※1:一晩あたりの夜間排尿回数2回以上及び夜間多尿指数33%以上。重症の過活動膀胱の症状が認められる患者〔過活動膀胱症状質問票(OABSS)12点以上〕、低膀胱容量(1回の最大排尿量が150mL未満)の患者等は除外。
社内資料:男性患者国内第Ⅲ相試験(130試験)[承認時評価資料]
Yamaguchi O, et al.: Low Urin Tract Symptoms 2020; 12(1): 8-19. フェリング・ファーマ実施治験
実臨床における治療成績9)〔研究概要〕
- 目的
- 下部尿路症状(LUTS)を有し、夜間多尿による夜間頻尿症と診断された成人男性患者に対し、前立腺肥大症(BPH)または過活動膀胱(OAB)治療で効果不十分のため、低用量デスモプレシンである50μg/日を追加投与したときの初期成績を検討する。
- 対象
- 2019年9月から2020年2月までに西野クリニックを受診し、LUTSを有した成人男性で夜間多尿による夜間頻尿と診断され、BPHまたはOAB治療を行うも効果不十分のため、追加で低用量デスモプレシン投与を行った患者20例
ミニリンメルト®OD錠50μg/25μgの夜間多尿の定義:夜間多尿指数(24時間の尿排出量に対する夜間の尿排出量の割合)が33%以上 - 投与方法
- 低用量デスモプレシン50μgを1日1回就寝前に水なしで服用した。高齢者は一般的に生理機能が低下していることから、安全面に配慮して25μg1日1回就寝前投与への減量を可とした。
- 評価項目
- 有効性:低用量デスモプレシン追加後1週および追加後4〜5週の有効性評価について、国際前立腺症状スコア(IPSS)、IPSS-QOL、過活動膀胱症状スコア(OABSS)、アテネ不眠尺度(AIS)、排尿日誌による評価として夜間多尿指数(NPi)、夜間排尿回数、就寝後夜間第一排尿までの時間(HUS)、就寝後夜間第一排尿量、夜間尿量および24時間尿量を検討した。
安全性:血清ナトリウム値のモニタリング、その他の副作用について評価を行った。評価期間中はBPH、OAB症状が悪化していないか確認するため、定期的に尿流量測定と残尿測定を行った。 - 解析方法
- 初診時とBPH・OAB治療後、追加後1週、および追加後4〜5週との比較について、対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準は両側5%とした。
改訂ポイント1:診療アルゴリズム1)
『夜間頻尿診療ガイドライン 第2版』の改訂ポイントの1つは、診療アルゴリズムを排尿日誌の使用の有無で、「泌尿器科専門医向け」と「一般医向け」とに分けたことである。
夜間頻尿の病態は、病因となる多尿・夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の3要素が複雑に絡み合い、症状も多様であるため、治療を考える上でアルゴリズムも複雑になりがちである。
そこで「一般医向け」では、夜間頻尿のみなのか、昼間頻尿も伴うのか、その他のLUTSがあるのかという3つに分けて、以降の診療フローを整理した。
一方「専門医向け」については、素案の段階で非常に複雑になり、どう整理するかの議論が重ねられた。最終的に、作成委員会で検討され、排尿日誌の評価で「多尿」「夜間多尿*3」「多尿も夜間多尿もなし」の3つに区分し、それぞれ膀胱蓄尿障害(目安として1回排尿量が200mL以下)の有無で整理する考え方で、アルゴリズム1~3を参照する形式となった(図)。
アルゴリズム1「多尿症例」では、多尿の精査・治療(行動療法)を行い、膀胱蓄尿障害がある場合はその治療を行う。なお、水利尿、浸透圧利尿の鑑別には簡便な尿比重検査も有用だが、確定診断には尿浸透圧を用いる。アルゴリズム3「多尿も夜間多尿もなし」では、膀胱蓄尿障害があれば膀胱蓄尿障害の治療を、なければ睡眠障害の精査・治療を行い、睡眠障害の治療効果が不十分な場合には睡眠障害診療に精通した精神科医や内科医に紹介する。
*3:夜間尿量が24時間尿量の20%(若年成人)あるいは33%(65歳を超える成人)を超えた場合、夜間多尿と診断
改訂ポイント2: Clinical Questions2)
新ガイドラインでは実臨床に即した29のClinical Questions(CQ)を新設し、最初のCQ1では、夜間頻尿患者に対する排尿日誌を推奨グレードAで推奨した。排尿日誌は、排尿回数、1回排尿量、1日尿量、昼間・夜間の尿量、就眠後第一排尿までの時間などの情報を知ることができ、診断、治療選択、治療効果判定に有用である。
CQ24「降圧薬は夜間頻尿のリスク因子となるか?」では、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬は病態によっては夜間頻尿を改善させる可能性があるが、経過を十分に観察しながら投与する必要がある。Ca拮抗薬は夜間頻尿を悪化させる可能性があることを示した。
CQ27「どのような場合に循環器専門医への紹介を考慮すべきか?」では、夜間優位な多尿症例やBNP上昇症例(≧100pg/dL、心不全の既往のある患者は≧200pg/dL)は循環器専門医への紹介を考慮すべきとした。また、近年BNPとともに心不全の診断などに使用されるNT-proBNPをCQ29で紹介した。NT-proBNPは血清で検査が可能で、検体の安定性に優れ、生化学検査と同一の採血管で採取可能などの利点があり、腎機能も併せて評価できる心腎関連マーカーとして注目されている。
改訂ポイント3:夜間多尿の治療3)
新ガイドラインでは夜間多尿の治療として行動療法を重要視した。飲水指導や行動療法は、夜間頻尿に対して最初に行うべき治療法であるとして、委員の議論と合意により、推奨グレードを定めた。
主な行動療法(生活指導)の推奨グレードは、飲水に関する指導A、塩分制限B、食事(Diet)B、運動療法(散歩、ダンベル運動、スクワットなど)B、禁煙C1、統合的生活指導Bとした。
〔推奨グレード A:行うよう強く勧められる、B:行うよう勧められる、C:行うよう勧めるだけの根拠が十分でない、C1:行ってもよい〕
1)日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編:夜間頻尿診療ガイドライン. 第2版, リッチヒルメディカル2020; 2-9.
2)日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編:夜間頻尿診療ガイドライン. 第2版, リッチヒルメディカル2020; 10-11, 63-65, 69, 72.
3)日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編:夜間頻尿診療ガイドライン. 第2版, リッチヒルメディカル2020; 130-134.
夜間頻尿の薬物治療
夜間頻尿の診療では、BPHやOABなどの膀胱蓄尿障害、夜間多尿、睡眠障害など複数の要因を念頭におく必要がある。特に夜間多尿は、夜間頻尿患者の約8割が有しているとの海外の調査結果もある1,2)。
新ガイドラインの夜間多尿の診療アルゴリズム3)では、BPHやOABに伴う膀胱蓄尿障害があれば、薬物治療としてそれぞれα1遮断薬、抗コリン薬・β3作動薬などを投与し、夜間多尿の行動療法(飲水指導、塩分制限など)も併せて実施する。高血圧等の合併症の治療を行った上でも夜間頻尿が改善しなければ、夜間多尿の薬物治療の追加、男性ではミニリンメルト®OD錠の投与を検討することになる。
泌尿器科専門医(324名、回答率42%)を対象とした男性のLUTS・BPHの薬物治療に関する意識調査4)では、LUTS・BPHに対して許容できる最大の薬物投与数は「3剤まで」が65%、「4剤まで」が25%という結果であった。また、投与薬の組み合わせとしては、「α1遮断薬+5α還元酵素阻害薬+OAB治療薬(抗コリン薬またはβ3作動薬)」が最多で87%であった。したがって、泌尿器科専門医の意識からは、BPH・OAB治療薬で夜間頻尿が改善しなければ、3剤目、4剤目の治療オプションとしてミニリンメルト®OD錠の投与があり得ると推察できる。
ミニリンメルト®OD錠の作用機序は水再吸収であることから、就眠前に服用することで夜間の過剰な尿生成を抑制することが期待できる。
睡眠サイクルと夜間頻尿
睡眠は約1.5時間を1サイクルとして浅睡眠と深睡眠を繰り返し(図1)、特に就眠後の前半のサイクルで深睡眠が多く出現するとされている。しかし、夜間頻尿患者における就眠後第一排尿までの時間は2~3時間とされ5)、2回目の睡眠サイクルの途中で覚醒することになり睡眠の質の低下が懸念される。
ミニリンメルト®OD錠50μg/25μgの国内第Ⅲ相試験(130試験)6,7)では、就眠後第一排尿までの時間の変化について検討している。投与12週間の就眠後第一排尿までの平均時間の変化量(副次評価項目、図2)は、50μg群でベースラインから約2時間(117.60分)延長、25μg群※で約1.5時間(93.37分)延長しており、プラセボ群の約1時間(62.97分)に対し有意な改善を示した(それぞれp<0.0001、p=0.0009、ANCOVA)。
本試験のベースライン時の就眠後第一排尿までの時間は平均約2.5時間であったことから、通常用量50μgの投与で約4.5時間、つまり睡眠サイクルの3回目のサイクル終了まで持続した睡眠が得られることになり、睡眠の質に対しても影響は大きいと考えている。
夜間多尿による夜間頻尿男性患者に対し、ミニリンメルト®OD錠は有用な治療手段となる。ただし、夜間多尿に対する行動療法を先行し、また膀胱蓄尿障害等がある場合にはその治療を先行することが重要である。ミニリンメルト®OD錠を適切に使用して、夜間頻尿治療の質を上げていただければと考えている。
1)Weiss JP, et al.: J Urol 2011; 186(4): 1358-1363. フェリング・ファーマ実施治験
2)Chang SC, et al.: Urology 2006; 67(3): 541-544.
3)日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編:夜間頻尿診療ガイドライン. 第2版, リッチヒルメディカル2020; 2-9.
4)福多史昌, 他:日本老年泌尿器科学会誌 2019; 32 (2): 39-45.
5)van Kerrebroeck P, et al.: Eur Urol 2007; 52(1): 221-229. フェリング・ファーマ実施治験
6)社内資料:男性患者国内第Ⅲ相試験(130試験)[承認時評価資料]
7)Yamaguchi O, et al.: Low Urin Tract Symptoms 2020; 12(1): 8-19. フェリング・ファーマ実施治験
夜間頻尿の治療のゴールは?
後藤:夜間頻尿の治療のゴールは難しい問題ですが、先生方はどのように設定していますか。また、患者さんとのコミュニケーションの工夫はありますか?
髙橋:夜間に排尿のために2回以上起きる人の7〜8割がQOLに問題を感じている1)ともいわれていますので、「年齢の影響もあり、決してゼロにはならない。1回を目指しましょう」と患者さんの反応を見ながら話しています。高齢者では、夜間頻尿の3つの病因である多尿・夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害を併せもつことも多いので、「1つずつstep by stepで改善していきましょう」と話します。
柿崎:私も1回を目標としますが、今より1回でも少なくなればよいとも考えていますので、患者さんには、1回減るだけでも就眠後第一排尿までの時間が延びれば睡眠の質が変わってくると説明しています。治療を進める上では「行動療法がしっかりできていますね」などと患者さんを褒めることも大切と考えています。
後藤:治療で3回が2回に減っても納得されない患者さんもいるので、私も「就眠後第一排尿までの時間が延びると睡眠前半での深い睡眠が得られやすい」という話をよくします。治療のゴールは患者さんの感じ方によっても違ってきますね。
ミニリンメルト®OD錠の患者選択は?
後藤:ミニリンメルト®OD錠の処方は難しいと感じている先生方もいらっしゃるようですが、ミニリンメルト®OD錠を処方する上で、患者選択についてアドバイスはありますか?
髙橋:最初は、行動療法やBPH・OABの治療をしても夜間排尿回数が3~4回以上あって困っている男性患者さんで、夜間頻尿以外に持病がなく、投薬や飲水制限の意義をしっかり理解し実行できる方に投与して経験を積むとよいと思います。
柿崎:夜間排尿回数が多い方は、何とかしたいというモチベーションも高く、必要な行動療法にもまじめに取り組んでくれますし、最初に使用しやすい患者像ではないかと思います。
後藤:夜間頻尿以外に合併症などがないことを確認し、低ナトリウム血症のリスクを小さくすることが大事ですね。
髙橋:一方、高齢で比較的やせている患者さんでは低ナトリウム血症が発現しやすい傾向があるので、投与開始を25μg※からとすることを考慮するとよいですね。
柿崎:投与を検討する際は、排尿日誌による夜間多尿の確認が必要です。排尿日誌に抵抗感を示す患者さんもいますが、「生活習慣を見直すことにも、治療の選択にも役立つ」と説明すると受け入れてくれることが多いです。ほかにも、夜間多尿の原因となる疾患(高血圧・糖尿病・心不全・睡眠時無呼吸症候群など)の評価や投与禁忌の疾患などにも留意が必要です。
投与前の検査は?
後藤:投与禁忌の疾患や夜間多尿の原因疾患を鑑別するために、どのような検査を行っていますか。
柿崎:低ナトリウム血症(135mEq/L未満)と腎機能の確認が必須です。中等度以上の腎機能障害(Ccr50mL/分未満)があると、デスモプレシンの血中濃度半減期が長くなり副作用が発現しやすくなります。習慣性・心因性多飲症は、排尿日誌の1日尿量で判断しています。
髙橋:心不全はBNP値をみて、投与禁忌となる目安(100pg/mL以上)に注意しています。症状では「階段での息切れ」「足のむくみ」などを聴取します。睡眠時無呼吸症候群は、患者さんの体型などにも注目し、問診でできる限りチェックするようにしています。
後藤:私は既にミニリンメルト®OD錠の投与で夜間排尿回数が減り、QOLへの影響を認めた患者さんを何例か経験しており、投与開始後の血清ナトリウム値のチェックや生活指導(図)も重要と考えています。今後も適正に使用して夜間頻尿の治療に役立てていきましょう。髙橋先生、柿崎先生、どうもありがとうございました。
1)Sawyer WH, et al.: Endocrinology 1974; 94(4): 1106-1115.
- ※6.
- 用法及び用量 成人男性には、通常、1日1回就寝前にデスモプレシンとして50μgを経口投与する。
- 7.
- 用法及び用量に関連する注意(抜粋) 7.1 年齢、体重、血清ナトリウム値、心機能等の状態から低ナトリウム血症を発現しやすいと考えられる場合には、デスモプレシンとして25μgから投与を開始することを考慮すること。
※掲載内容は、作成時点での情報です。転用等の二次利用はお控えください。